探偵は岐阜の居酒屋にいる<13>

翌朝・・・

前後不覚のまま自宅についたようだ。どのようにして帰宅したのかも覚えていない。遠くで電話の音がする。電話・・・。頭の中で鳴り響いている。頭痛もする。その音のせいで頭痛が増幅していく。

電話がとれない。

そしていつものようにいつもの喫茶店に行く。

その喫茶店で昨晩に松田から受け取った資料に目を通していた。まだ地球が回っていたがとにかく目を通そうと努力した。

そこに新聞の切り抜き記事。

何年か前にビルの火災跡から遺体が発見された。その人の名前は「山田京子」という・・、そんな内容の記事だ。そして山田京子はスナック京子を経営していたという。

そこで探偵は考える「何故だ?、これでおもしろくなってきたぞーーー」と。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<12>

「ママは独身でしょ、いや、独身じゃなくてもいいや、ねぇ、結婚して」と酔っ払い故の戯言。しかし戯言と言えないぐらいに探偵はママの魅力に吸い寄せられていた。

松田は「やめろよ、その話題は・・」

「何で?」

「なくなったの、ママのご主人は、去年」

「あぁ、そうだったのか、知らなかった、ごめん」

「ママのご主人は昨年暴行にあってなくなった山島グループの社長だよ、少女を助けようとしてやられてしまった・・」

「あぁぁぁぁ、あの山島社長の・・。確か女の人を助けようとしたんだよな」探偵はびっくりする。

ママはその話題から逃げることもなく、「でもこの店残してくれたから。私頑張ってもっともっと素敵なお店にしたいと思っているの」

この話を松田が聞きながら、「だから私は応援しているの・・」と涙を流す。

探偵はそれに同調するように、「よし、飲もう、みんなも飲んで、ね、ママに乾杯」。

探偵と松田は泣きながら飲み続けた。グデングデンになるまで飲み続けた。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<11>

新聞記者の松田に会った。松田から側転道場についての情報を入手しようと思い、とあるバーであった。そのバーがとにかく怪しげである。松田の彼女が彼なら、このバーも彼と彼の関係・・。そんなバーで情報をもらう。

その松田にお礼をすることになった。

「今晩、そのお礼をしてくれる?」

といって連れて行かれたのがカラオケおかまラウンジだった。そこで松田聖子の歌を3時間も付き合わされた。そしてその後に連れて行かれたのが、なんと高級クラブ。とにかく美人ママがいるらしい。高級な内装にインテリア、高級な調度品・・・、何もかもが高級なお店だ。さぞかし高級なママなんだろう。

胸をときめかせて待っていると、そのママが現れた。想像通りだ。すごい美人のママだった。

「松田さん、お久しぶり、そして、こちらさんは初めまして、かしら」と挨拶。

松田は「正確には去年からいうと二回目かな」と。

ママは探偵に名刺を渡す。「さおりさんって言うんだ」

探偵はあわてて自分の名刺を探しながら、「錦や栄の雑用ならいつでもどうぞ」と。しかしその名刺が見つからずに、「おい、名刺きらしちゃったよ、他の店で姉ちゃんたちにやるんじゃなかったよ」と八つ当たりする。

「大丈夫ですよ、私は一度お会いしたことがありますか」

探偵は岐阜の居酒屋にいる<10>

そこで高田とまずは森弁護士事務所の前で張り込むことにした。

出た出た・・、『佐竹コーポレーション』と書かれた車がビルの前で止まる。そこから出てきたのが、悪党どもだ。オレを奈落の底に突き落とした連中だ。

 

ここで高田を少し紹介しよう。

高田は探偵よりもかなり年下で、とにかくタメ口だ。高田は何の研究をしているのかよく分からないが、一応、名大の助手であり、いつも居眠りばかりしている空手の師範であり、出来ることなら一日中寝ていたいという変わり者であり、オレの運転手でもある。ただ、その車はとにかくポンコツだ。いざというときに動かない。

『佐竹コーポレーション』と書かれた車が動き出したのでそのポンコツを出そうとしても、なかなかエンジンがかからない。「早くうごいてくださいて、お願いします」そんな風になだめないと動かない。そして今、まさしく今、「お願い、エンジンかかってお願い」と二人でお願いし続けてようやく動き出した。

そして後をつけてきてついたのが、岐阜の郊外にある「側転道場」だ。この施設はなんだ?

 

まずはこの側転道場をつつくことにしよう、そう探偵は決めた。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<9>

とにかく今は忌まわしい記憶を忘れることだ。いち早く日常を取り戻すことだ。それは最も探偵が得意とする技だ。過去を忘れ、現在の快楽のために生きる。酒と女と睡眠。

朝はいつもの喫茶店でナポリタンと珈琲。

「珈琲変わったか?」

色気のあるウェートレスが「わかる?あんたのためにさぁ、変えたの」

「まずい、いつものがいい」と喫茶店を飛び出る朝。

 

忘れることを特技すると探偵もさすがに今回はそうはいかない。自分を怒られた奴らに報復することにした。そう決意した。まずいコーヒーなどはどうでもいい。でも自分を生き埋めにしようとした連中はゆるされん。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<8>

その夜、居酒屋に電話を掛けてきた山田京子に紳士的に調査結果を報告した。ありのままを報告した。一言をつけて・・・

「オレは死にかけたんだぞ、連中はオレを殺そうとしたんだぞ」

「まさか」

「まさかじゃねーよ」大きな声で騒いでいる探偵に向かって山田京子は、「落ち着いてください」と一蹴。「それで調査結果は?」

探偵は一呼吸おいてから調査結果を話し出した。ありのままを。

「弁護士は加藤など知らないと、しかし大分慌ててた様子だった、それだけだ」

その様子を聞くと「ありがとう、それじゃぁ」と電話を切りかける女。

「まてまてまてまて、今度はオレが何故生き埋めにされそうになったか教えてくれませんかね、そんなやばい話なんですかね、オレを生かして戻したと言うことは君への警告でもあるんだよ」

「だから?」

「だからじゃぁねーだろー、事情をちゃんと説明しろよ」

「またお願いするかもしれません」

「だめだ・・・」

ここで電話が切られる。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<7>

それから数時間後、探偵は岐阜の自宅の風呂に入っている。凍えた体を温めている。高田が無事に向かえにきて、そして自宅まで送ったのだ。

これほど間抜けで馬鹿な探偵がいるだろうか?

「よかったな、ロープがほどけて・・」

「いいや、ほどけるように結んであったんだよ」

「どういうこと?」

「脅しだよ、今後こそ命がないという脅しなんだよ、これ以上、この問題に関わるなという警告に違いない」

探偵は岐阜の居酒屋にいる<6>

しかし、地球上に奇跡というのがあるとするならば、まさしく奇跡的に手足を縛ってあるロープが雪の中ではずれた。そして雪の中でもがき苦しみ、窒息寸前で地上に出ることができた。

オレは生きている、奇跡的に生きている。

体全体が寒さで凍えそうでも、それでもオレは生きている。どうして地上に出られたのか、その記憶すらない。ただ自分の本能のままに体が必死にもがき苦しみ、そして生への執着のみで動いた。

地上に出られたときも生きている実感はない。今、自分は何をすればいいのか・・・。電話だ。友人の高田に電話だ。でも携帯はない。どうすればいい。寒さで動かない体を少しずつ前進させた。民家はない。どれくらいの時間、あるいたのだろうか。一時間、半日、あるいは丸一日? そんな時間の感覚が完全に失われている。

目の前に公衆電話が突然に現れる。本当に奇跡なのか。そう思わざるを得ない。ポケットに手を入れて小銭を探った。あった!かろうじて100円玉1個あった。これで高田に電話しよう。

そしてようやく電話をした、繋がった。これでこそ本当に生き残ったと言える。本当に生きている。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<5>

事務所に出てから探偵はちょいと一杯引っかけるつもりで町にでる。知り合いの呼び込みと「こちとら時給10万円の仕事を決めてきたんだよ」と自慢げに話をする。

そんな最中にあやしい男達が車を降りてくる。後ろから3人、探偵の前から行く手をふさぐように3人・・。そしていきなりスタンガンで気絶させられた。

探偵は気絶したまま車のトランクに入れられて、岐阜の山奥までつれてこられた。

まだ雪深い岐阜の山奥・・・、ここで探偵は手足を縛られたまま降ろされる。目の前には深い、地獄に繋がるような穴がある。

「お前はここで死ぬんだよ、人間は死ぬ瞬間に色々な画面がフラッシュバックするそうそうだ、本当かね・・・」、そういわれた瞬間、後ろから足蹴りにされた。そして奈落の底へ・・。「あああ、オレは死ぬんだ」

そうして体全体に雪を埋められた。

探偵は岐阜の居酒屋にいる<4>

探偵は早速動き出した。南の弁護士事務所の入ってるビルに一人で乗り込んでいく。そして探偵は南弁護士事務所のドアをノックする。

探偵は、「害虫駆除をやっている会社ですが、当社の顧問になってもらいたく、お願いにきました」

なんと見え見えの嘘なのか。自分でもおかしく思いながら結構いけてる雰囲気でしゃべる。

しかし南は「それはそれは・・・」と偉ぶってしゃべりだす。

「ご存じではないのでお教えしますが、うちの顧客はいずれも大手なんです」

「つまり、うつのような弱小企業はここに来るのはお門違いだということですか」

「双方のメリットを考えればその方がいいってことだよ」と、完全な上から目線になる。

探偵はここで切り出す。

「困ったな、しかし例えばですよ、山田京子さんの紹介でもダメですかね」

「誰の紹介だって?」

探偵は再度繰り返す。「山田京子、ご存じありませんか?」

「さぁ、しらんね」

「そうですか・・、いや実はですね、その山田京子さんが昨年の2月5日に加藤という人がどこにいたか聞いてくれ、そう言っているんですよね」

「君は何の話をしているんだ?」

「いえ、わからなければ結構です」と探偵は立ち上がり、急いで事務所を後にする。